売掛金の回収が遅れて仕入れができない──。この状況に陥ると、受注があるのに商品を用意できず、売上はさらに減り、資金繰りの悪循環が加速します。ネットプロテクションズが2025年8月に実施した調査では、77%の企業が「何らかの未払い・入金遅延を経験している」と回答しました(調査対象452社)。未払いゼロと答えた企業はわずか14.3%です。
帝国データバンクによると、2025年の全国企業倒産件数は1万261件と12年ぶりに年間1万件を超え、倒産主因のうち「売掛金回収難」は50件、「販売不振」を含む不況型倒産は8,502件(全体の82.8%)に達しています。とくに負債5,000万円未満の小規模倒産だけが増加しており、資金繰りの余力がない中小企業ほど追い込まれやすい状況です。
この記事では、売掛金回収の遅れで仕入れ資金が足りなくなったときに、今日から実行できる具体的な対策を、緊急度の高い順に解説します。
筆者:八木健介(中小企業資金繰りサポーター)
資金繰り改善コンサルタントとして中小企業の財務体質強化を支援。ファクタリング・銀行融資・補助金活用の実務に精通。
この記事でわかること
- 売掛金回収の遅れが仕入れ停止→売上減少→さらなる資金不足を招くメカニズム
- 回収遅延の4つの原因と、放置した場合に起こる5つのリスク
- 今日から実行できる7つの対策(緊急度順)
- 回収を待たずに売掛金を即日資金化できるファクタリングの仕組みと費用
- 200万円の売掛金を即日資金化した場合のコストシミュレーション
- 手数料の経費処理(勘定科目・仕訳例)
売掛金の回収遅れが仕入れ停止を招くメカニズム
売掛金回収の遅れが経営を圧迫する流れは、次のように連鎖します。
①取引先からの入金が遅れる → ②手元の現金が減る → ③仕入れ代金を払えない → ④商品を確保できず受注に対応できない → ⑤売上が減少する → ⑥さらに資金が不足する
たとえば月商500万円、仕入れ比率70%の卸売業者を想定してみます。売掛金の回収サイトが90日の場合、帳簿上は利益が出ていても、常に約1,500万円の売上が入金待ちの状態です。ここで取引先から「来月の支払いを15日延ばしてほしい」と言われると、105日分=約1,750万円が未回収となり、翌月の仕入れ代金350万円を払えなくなるケースが現実に起こります。
業種別の売掛金回転期間を見ると、卸売業は平均約56日(1.83か月)で、小売業の約23日(0.75か月)の2倍以上です。製造業は約70日(2.34か月)、建設業はさらに長く90日〜1年超となることもあります。回収サイトが長い業種ほど、わずかな遅延が資金ショートに直結します。
売掛金回収が遅れる4つの原因
原因①:取引先の資金繰り悪化
最も多いパターンです。取引先自身が入金遅延を起こしている場合、あなたへの支払いも後回しにされます。帝国データバンクの調査では、2025年の不況型倒産は8,502件で、前年から3.6%増加しています。取引先の経営状態が悪化すれば、支払い遅延は突然発生します。
原因②:支払いサイトの長期化
大手取引先との商習慣で「月末締め翌々月末払い」(約90日)が常態化している業種では、そもそも構造的に資金が滞留します。卸売業の平均回収サイト56日は全業種平均を大幅に上回っており、商品を納品してから約2か月間は現金化できない状態が続きます。
原因③:請求・検収プロセスの遅延
納品書の不備、検収手続きの遅れ、請求書の発行ミスなど、社内・社外の事務処理が原因で入金が遅れるケースも少なくありません。ネットプロテクションズの調査では、請求件数が月500件を超える企業の約37%が未払い率5%以上と回答しており、請求量が増えるほど管理体制が追いつかなくなる実態が明らかになっています。
原因④:取引先の意図的な支払い引き延ばし
資金に余裕があるにもかかわらず、意図的に支払いを遅らせる取引先も存在します。契約書に遅延損害金の条項がない場合、取引先にとって「遅く払ったほうが得」になってしまう構造的な問題です。
放置すると起こる5つのリスク
リスク①:仕入先への支払い遅延と信用失墜
自社の仕入先への支払いが遅れると、遅延損害金が発生します。商法上の法定利率は年3%ですが、契約書で年14.6%と定めているケースが一般的です。下請法が適用される取引では、受領日から60日以内に支払わなければ年14.6%の遅延利息が法的に発生します(下請法第4条の2)。200万円を30日遅延した場合、遅延損害金は約24,000円です。金額以上に、仕入先との信頼関係が損なわれ、取引条件の悪化や取引停止につながります。
リスク②:給与支払いの遅延
労働基準法第24条により、賃金は所定の期日に全額を支払わなければなりません。遅延した場合は年3%の遅延損害金に加え、労働基準監督署からの是正勧告や、最悪の場合30万円以下の罰金の対象となります。従業員の士気低下と離職も深刻です。
リスク③:黒字倒産
帳簿上は利益が出ていても、手元の現金がなければ支払いは止まります。東京商工リサーチの調査では、倒産企業のうち32〜40%が直前期に黒字だったとされています。売掛金が入金されるまでの「時間差」が、黒字倒産の最大の原因です。
リスク④:銀行融資の審査悪化
売掛金回転期間が長期化し、手元資金が減少している状態は、銀行の融資審査でマイナス評価を受けます。資金繰りが悪いタイミングで融資を申し込むと、金利の引き上げや融資額の減額、最悪の場合は融資そのものが受けられなくなります。
リスク⑤:連鎖倒産
取引先の倒産によって売掛金が回収不能になると、自社も資金ショートに陥る「連鎖倒産」が発生します。2025年の倒産件数1万261件という数字は、すべての中小企業にとって取引先リスクが過去10年で最も高まっていることを意味します。
今日から実行できる7つの対策(緊急度順)
対策①:未回収売掛金の総点検【今日中】
まず、すべての売掛金を一覧にし、支払期日を過ぎている取引先を洗い出します。金額の大きい順にリスト化し、それぞれの入金予定日と遅延日数を把握します。これだけで「いくら足りないのか」「いつまでに必要なのか」が明確になります。
対策②:取引先への入金催促【今日〜明日】
支払期日を過ぎた売掛金については、まず電話で状況を確認します。単純な事務ミスであれば、連絡一本で数日以内に入金されることも珍しくありません。催促しても支払われない場合は、書面(内容証明郵便)による催告に切り替えます。
対策③:仕入先への支払い延期交渉【今日〜今週】
入金が遅れている事実と、具体的な支払い予定日を仕入先に正直に伝え、支払い猶予を交渉します。費用ゼロで即日実行できるため、最初に検討すべき対策です。ただし、信頼関係が前提であり、繰り返すと取引条件が悪化するリスクがあります。
対策④:在庫・不要資産の現金化【今日〜1週間】
過剰在庫、遊休設備、使っていない車両など、換金可能な資産を洗い出して売却します。在庫処分セールは粗利が下がりますが、現金化のスピードは速く、仕入れ資金の穴埋めに有効です。
対策⑤:入金済みの売掛金をファクタリングで即日資金化【今日】
支払期日前の売掛金(請求書を発行済みだがまだ入金されていないもの)を、ファクタリング会社に売却して即日現金化する方法です。借入ではないため負債が増えず、取引先に知られずに利用できる(2社間ファクタリング)のが最大の特徴です。詳細は次章で解説します。
対策⑥:ビジネスローンの利用【即日〜1週間】
銀行融資より審査が早く、最短即日〜数日で資金を確保できます。ただし金利は年5〜18%と高く、借入残高が増えると銀行融資の審査にも悪影響を及ぼします。短期間のつなぎ資金として使い、早期完済を前提とすべきです。
対策⑦:銀行融資・公的融資の申し込み【1〜4週間】
金利は年1〜3%と最も低コストですが、審査に1〜4週間かかります。日本政策金融公庫のセーフティネット貸付や、信用保証協会のセーフティネット保証など、資金繰りが厳しい企業向けの制度もあります。緊急の仕入れ資金には間に合わないことが多いため、中長期の資金繰り安定策として位置づけます。
売掛金を即日資金化するファクタリングの仕組み
ファクタリングとは、支払期日前の売掛金(請求書)をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた金額を即日受け取る資金調達方法です。銀行融資やビジネスローンと異なり、借入ではなく「債権の売却」であるため、貸借対照表上の負債は増えません。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い
2社間ファクタリングは、あなたの会社とファクタリング会社の2者間で契約します。取引先への通知は不要で、取引先に資金繰りの事情を知られることがありません。手数料は8〜18%、入金は最短即日です。
3社間ファクタリングは、取引先にも通知・承諾を得て契約します。ファクタリング会社にとって回収リスクが低くなるため、手数料は2〜9%と安くなります。ただし取引先への通知が必要で、入金まで1〜2週間かかります。
売掛金回収の遅れで仕入れができない緊急事態では、即日入金・取引先非通知の2社間ファクタリングが現実的な選択肢となります。
ファクタリングの利用手順と所要時間
①申し込み(約5分):オンラインフォームから申請。
②書類提出(約10分):請求書、直近の通帳コピー、決算書(または確定申告書)、本人確認書類をアップロード。
③審査(15〜30分):売掛先(取引先)の信用力を中心に審査。あなたの会社が赤字でも、売掛先が信用できれば通過します。
④契約(約5分):電子契約で完結。
⑤入金(即日):契約完了後、指定口座に振り込み。
午前中に申し込み、書類を事前に準備しておけば、合計60分〜2時間で入金まで完了するケースが多くなっています。
コストシミュレーション:200万円の売掛金を即日資金化した場合
売掛金200万円を各方法で資金化した場合のコストを比較します(資金が必要な期間を90日と仮定)。
2社間ファクタリング(手数料8%):200万円 × 8% = 手数料16万円、受取額184万円、即日入金。
2社間ファクタリング(大手取引先・手数料5%):200万円 × 5% = 手数料10万円、受取額190万円、即日入金。
3社間ファクタリング(手数料3%):200万円 × 3% = 手数料6万円、受取額194万円、入金まで1〜2週間。
ビジネスローン(年利15%・90日):200万円 × 15% × 90日 ÷ 365日 ≒ 利息約73,973円、資金化まで即日〜1週間、負債が増加。
銀行融資(年利2%・90日):200万円 × 2% × 90日 ÷ 365日 ≒ 利息約9,863円、資金化まで1〜4週間、負債が増加。
手数料だけを見るとファクタリングは割高に見えますが、負債が増えない・即日入金・取引先に知られないという3つのメリットを加味すると、緊急時の仕入れ資金確保としては合理的な選択肢です。とくに売掛先が大手企業や官公庁の場合、審査通過率は80〜95%に上がり、手数料も3〜10%に抑えられます。
ファクタリング手数料の経費処理
ファクタリング手数料は、勘定科目「売上債権売却損」として営業外費用に計上します。会計ソフトにこの科目がない場合は「雑損失」や「支払手数料」でも問題ありません。なお、ファクタリング手数料は消費税法上非課税取引に該当するため、消費税はかかりません。
仕訳例(売掛金200万円、手数料8%=16万円の場合):
【ファクタリング契約時】
(借方)未収入金 2,000,000 /(貸方)売掛金 2,000,000
【入金時】
(借方)普通預金 1,840,000 /(貸方)未収入金 2,000,000
(借方)売上債権売却損 160,000
ファクタリングを使って仕入れ資金を確保するときの注意点
注意①:手数料の総額を必ず事前確認する
「手数料5%」と案内されていても、事務手数料や登記費用などが別途かかるケースがあります。契約前に「受取額がいくらになるか」を書面で確認してください。
注意②:極端に低い手数料を提示する業者に注意する
「手数料1%」などの極端な低価格を売りにしている業者の中には、契約段階で追加費用を請求したり、実態がファクタリングではなく貸付であったりするケースがあります。金融庁も注意喚起を行っています。
注意③:複数社から見積もりを取る
ファクタリング会社によって手数料率は大きく異なります。同じ売掛金でも3社に見積もりを依頼すれば、手数料が数万円単位で変わることも珍しくありません。
注意④:二重譲渡は絶対にしない
同じ売掛金を複数のファクタリング会社に売却する「二重譲渡」は、詐欺罪に問われる可能性があります。1つの売掛金につき、売却先は1社に限定してください。
よくある質問
Q. 個人事業主でもファクタリングは使えますか?
はい、個人事業主でも利用可能なファクタリング会社は多数あります。必要書類は確定申告書、請求書、通帳コピー、本人確認書類が一般的です。
Q. 赤字決算でも審査に通りますか?
通ります。ファクタリングの審査で最も重視されるのは、あなたの会社ではなく売掛先(取引先)の信用力です。売掛先が安定した企業であれば、自社が赤字や債務超過でも利用できるケースが多くあります。
Q. 取引先に知られませんか?
2社間ファクタリングであれば、取引先への通知は不要です。売掛金の支払い自体はこれまでどおり取引先からあなたの口座に入金され、入金後にファクタリング会社へ送金する仕組みです。
Q. 銀行融資の審査に影響しますか?
ファクタリングは借入ではなく債権の売却であるため、信用情報機関への登録はありません。貸借対照表上も負債が増えないため、銀行融資の審査にはむしろプラスに働く場合があります。
Q. 回収遅延中の売掛金もファクタリングできますか?
すでに支払期日を過ぎて遅延している売掛金は、多くのファクタリング会社では買取対象外となります。ファクタリングは「支払期日前の、正常な売掛金」を対象とするのが原則です。遅延中の売掛金以外に、まだ支払期日が来ていない売掛金があれば、そちらを資金化して仕入れ資金に充てる方法が有効です。
まとめ:売掛金回収の遅れで仕入れができないときの行動ロードマップ
【今日やること】
売掛金の一覧を作成し、遅延している取引先と金額を把握する。遅延先に電話で催促する。支払期日前の売掛金がある場合は、ファクタリング会社3社以上に見積もりを依頼する。
【今週やること】
仕入先に状況を説明し、支払い猶予を交渉する。在庫・不要資産の現金化を検討する。ファクタリングの見積もりを比較し、最も条件の良い1社と契約する。
【今月やること】
銀行融資や公的融資を申し込み、中長期の資金繰りを安定させる。取引先との契約書を見直し、遅延損害金条項(年14.6%)を追加する。与信管理を仕組み化し、取引先の財務状態を定期的にチェックする体制を整える。
【3か月後の目標】
売掛金回転期間を短縮する交渉を進め、回収サイトを30日以上短縮する。緊急時のファクタリング活用ルールを社内で整備し、資金ショートを未然に防ぐ仕組みを構築する。


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